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日本の裁判官は、最高裁判所の裁判官以外は、最高裁判所が指名した者の名簿に基づいて、内閣が任命します。
選ばれる裁判官は、一部の例外をのぞいて、最初から裁判官としてスタートし、そのまま最後まで裁判官、というケースがほとんどです。そして、国民が関われるのは、最高裁判所の裁判官が適切な仕事をしているかどうか、「国民審査」でチェックできるという点だけです。
アメリカでは、事情がだいぶ異なります。まず、裁判所そのものが、合衆国全体(連邦)と各州とで分かれていますし、そもそも裁判官は、最初から裁判官としてスタートするのではなく、弁護士、検察官、政府職員やロースクールの教授として、法律の実務経験を積んだ人の中から選ばれます。
そして、多くの州では、なんと「選挙」で選ばれるのです! 州によっては、いきなり選挙ではなく、州知事や州議会が任命することもありますが、その場合でも、あとでなんらかの形で住民が関わることが多いようです。
本シリーズに登場するギャントリー判事は、州の地方裁判所の裁判官ですが、おそらく選挙で選ばれているものと思われます。つまり、市民に選ばれたギャントリー判事は、市民の代表として法廷を預かっている以上、市民からの人気も高く、また親しまれる存在であるよう努めるのも当然なのです。
罪を犯したと思われる被疑者を起訴する検察官についても、同じようなことが言えます。日本の検察官は、最初から検察官として養成されてスタートし、そのまま最後まで検察官というのが、ほとんどです。一方、アメリカの州検察官は、州政府に雇われた弁護士という位置づけで、数年館勤務したあとで法律事務所に戻ったり、裁判官になる場合もあります。そして、州の検察組織の最高責任者である「地方検事」は、ホーガン検事のように選挙で選ばれる州もあります。
こうした制度が成立した背景のひとつに、アメリカの建国の歴史があるといえるでしょう。アメリカはもともとイギリスの植民地で、そのころは裁判もイギリスという「権力」に従わざるを得ませんでした。そこで、独立を勝ち取った後は、揉めごとも市民の間で決めようという考え方が成り立ったと考えられます。
アメリカの「陪審制度」は、事件ごとに市民の中から選ばれた十二人が「陪審員」になり、刑事裁判なら、被告人が有罪か無罪かを決める「評決」を行います。
日本でも、「裁判員制度」という市民が裁判に参加するしくみがありますが、こちらは、重大犯罪の刑事裁判だけが対象ですし、裁判官といっしょに事件について話し合い、有罪・無罪のほか、刑の重さを決める点が大きく違います。
アメリカのほとんどの州では、有罪のときの刑の重さは裁判官が決めますが、陪審員の話し合いには、裁判官は参加できません。法律には素人の十二人だけで、有罪か無罪かを決めるのです。
ですから、本シリーズのダフィー夫人殺人事件のように、決定的な証拠や証人がいない場合は、有罪を主張するホーガン検事と、被告人ダフィー氏を弁護するナンス弁護士の「陪審員の心への訴え方」、つまり、いかにすばらしい弁論をするかが、有罪・無罪に大きく関係してくるわけですね。
動物の裁判所、なんて日本では聞いたことがないですよね。アメリカにはなんと、迷惑行為をしたペットとその飼い主の責任を問う「動物裁判所」があります。
日本ではなじみのない法廷ですから、作品の中でどのような裁判が登場するか、紹介しましょう。
ケース1 (①巻『なぞの目撃者』より)
【訴えられている人】ブラジルボアという種のおおきなヘビとその飼い主
【訴えている人】となりの部屋の住人
【訴えの内容】ヘビが飼い主の部屋を脱出し、となりの部屋のキッチンにたびたび侵入する。身の危険を感じるため、ヘビを処分するよう裁判所から命令を出してほしい。
【判決】ヘビを部屋から絶対に逃がさないように管理すること。今度ヘビが飼い主の部屋以外でつかまったら、裁判所が処分命令を出す。
ケース2 (②巻『誘拐ゲーム』より)
【訴えられている人】オウムとその飼い主であるハイチからの移民家族
【訴えている人】乗馬クラブの経営者
【訴えの内容】オウムが乗馬レッスン中の生徒のそばを飛び回り、生徒にケガを負わせた。また「歩け」とか「止まれ」という馬への指示をオウムが声まねしたため、馬が講師の指示とちがう行動をし、レッスンが台無しになった。さらにはオウムが「アンタ デブ」といった暴言をはいた。そのため、スクールは生徒たちからレッスン料の返還を求められ、営業妨害を受けている。
オウムを眠らせるか、飛べなくなるように、羽を切ってほしい。
【判決】オウムの飼い主は、裁判になるまでどんな問題がおこっていたのか知らなかったのと、本件について謝罪の気持ちをもっているので、一度だけ執行を猶予する。再び同じ問題で訴えられたら、議論の余地なくオウムを捕獲し、羽を切る。その措置にかかる費用は飼い主の負担とする。
※この裁判では、訴えている人=原告の代理を本物の弁護士が務め、訴えられている人=被告人の代理をセオが務めた。
本シリーズの中で、「動物裁判所」はさまざまな裁判所のなかでも一番レベルが低く、判事には、どの法律事務所にも雇ってもらえなくなった落ちこぼれ弁護士が任命され、また、動物に関するトラブルを抱えた人はだれでも、弁護士なしで動物裁判所に訴えを起こせることになっている、と書かれています。
本物の弁護士は、動物裁判所での仕事はしたがらないそうなのですが、逆に本物の弁護士資格をもっていなくても、訴えられた人の代理人として裁判を進めることができるので、13歳のセオはこの法廷で弁護士になりきって活躍しているんですよ。
「控訴」とは、最初の裁判の結果に納得がいかない場合、ひとつ上の裁判所、日本でいえば高等裁判所に訴え直すということです。
日本では、被告側からだけでなく、検察側からの控訴も可能です。
でも、アメリカの州の裁判所では、無罪になった被告人を検察側が控訴することはできません(有罪とされた被告人が控訴することはできます)。
本シリーズの①巻に登場する【謎の目撃者】が、正体を明かせないからといって、出廷しないまま裁判を進め、ダフィー氏を無罪にすれば、殺人犯かもしれない人物を野放しにすることになります。そして、いったん無罪が確定すると、検察からは裁判のやり直しを請求することができなくなってしまいます。だからこそ、決定的な目撃者の存在が、楽勝ムードに酔いしれるダフィー氏だけでなく、法廷の全員にとって大事件なんですね。
アメリカの連邦裁判所は、日本と似たような三審制(三回まで審理を受けることができるしくみ)をとっています。
アメリカの各州の裁判所例。裁判所の呼び方がちがったり、州によっては三審制ではないところもあります。
【参考:「少年弁護士セオの事件簿」シリーズの訳者・石崎洋司先生による「あとがき解説」より】
ぜひ本編とあわせてご一読ください!